後宮小説を読んで

以前から読んでみたいと思っていた
後宮小説(著:酒見賢一)を読んだ。

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著者の作品を読むのは初めてである。
出会いのきっかけは、他作家のエッセイだった。私の好きな作家の一人である、直木賞受賞作家、恩田陸氏のエッセイにて「同年代でここまで書けるのに衝撃を受けた」と評されており、どのような作品なのかと気になっていた。
(当時、私は後宮の意味もわかっていなかった。)
恩田氏は「小説とはもっと年を経たうえで自身の経験を文字に昇華するものだと思っていたのだが、私の年でも小説を書いてよいのだと感じた」ともそのエッセイにて綴っている。


後宮小説の著者である酒見氏は25歳で本作を書き上げており、その後恩田氏も同じく25歳で「六番目の小夜子」を書き上げることになる。
売れっ子作家に発破をかけた小説とはどのようなものなのか、
ワクワクしつつ読み始めた。
著者の作品を読むのは初めてであった。
きっかけは私の好きな作家の一人である恩田陸がのエッセイを読んだ際「同年代でここまで書けるのに衝撃を受けた」との記述があり、どのような作品なのかと気になっていた。
(当時は後宮の意味もわかっていなかった。)
後宮小説の著者である酒井氏は25歳で本作を書き上げている。

 


さて、内容に入る。
本作は中国王朝時代を模した架空国架空時代の歴史書を紐解いた学者の手記、という形で展開されていく。
本作は大きく2部に分かれている。

主人公は銀河という女子、皇帝即位にあたり各地より後宮の候補生として王宮に召集される者のひとりである。
銀河は幼いながら容姿端麗であり、また肝っ玉の据わった少女として描かれている。
1部では後宮では双槐樹、江葉、世沙明の3名とルームシェアをしながら新皇帝の側室となるべく、学者瀬戸角人から房中術を学んでいく。
房中術とは要するに床でどのように皇帝を悦ばせるか、ということである。
この点だけではある種の官能小説と誤解を招くかもしれないので補足すると、
作中では真理に至る学問のひとつとして扱われている。
おそらくは当時の中国王朝においても後宮で講義が行われていたと思われる。
それくらい、本作では進行役である歴史学者が引用を多用する。
まるで本当に存在する歴史書を用いているかのように物語が展開していく。

 

2部では銀河が晴れて後宮入りした後に反乱が起こり、
いかにして反乱を乗り越えていくかが描かれている。
概ね全体の3分の2が1部、残りの3分の1が2部だ。
銀河が後宮入りし無事側室となりました、めでたしめでたしでは盛り上がりに欠けるため、2部が作られたのではないかと思う。
それほどまでに話ががらっと変わる。
2部では銀河を後宮に連れていく際に護衛を担当した平勝、渾沌という2名が暇つぶしの為反乱を起こし、あれよあれよという間に王朝を滅亡に導く様が描かれている。
この辺りは漫画:キングダムを読んだことがあれば脳裏に映像が描きやすいと思う。
話の落ちとしては、銀河は運よく逃げ延びその後皇帝の子を産み歴史書から姿を消す。
歴史家は銀河の足跡をたどり婦院にたどり着いた後、銀河を知る女将に話を聞いて終幕となる。

 

もし本作の発表が2000年以降であればおそらくライトノベルとして発表されたとしてもおかしくはない内容であった。事実、本作はその後「雲のように、風のように」というタイトルでアニメ化されている。
しかし軽快ながら歴史小説を思わせる文体の固さは、この作品を25歳の若者が書いたのかと驚かされる。恩田氏をして「驚いた」と評すのにも納得だ。

 

私は本作を文庫版で読んだので、著者のあとがきも掲載されていた。
それによると、当時の批評としては「勉強小説」と揶揄されていたらしい。
「勉強しながら書いた小説」「著者の知識をひけらかした小説」という意味だ。
この点に対して酒井氏は「小説とは参考文献を読み舞台設定を作っていくものである、しかしながら知識をひけらかしているように見えたのであれば私の精進が足らなかった」との旨コメントしている。
なかなか手厳しい批評である。
そんなに言うことないのではないか、その後酒見氏が小説家として大成していったからよかったものの、若者の芽を摘むような評価をしなくてもよいではないかと思う。

 

と、あとがきに関する感想が長くなった来たところで感想をまとめる。

中国王朝時代を模した架空世界の後宮を舞台にした本作は、若干25歳の作品という点を考えると非常に起承転結まとまった小説といえる。

特に「転」が優れていると思う。

 

 

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